お茶かスポドリか経口補水液か?!
漢方薬店kampo’s薬剤師の鹿島絵里です。現代ならではの目線と評価で、漢方の役立つ情報を発信していきます。
たっぷり汗をかく今の時期、脱水症状を防ぐために塩分と水分を同時に補給するようにと注意喚起されます。お水だけ、お茶だけよりは、スポーツドリンクや経口補水液が推奨される傾向がありますが、これらは場面に応じて使い分ける必要があります。それぞれどのような違いがあるのでしょう。
Contents
熱中症と脱水症状はどう違う?
熱中症と脱水症状は同時に論じられることが多いですが、一度整理しておきましょう。
熱中症は高温多湿な環境の中で身体におきる異変、障害の総称を言います。一方、脱水症状は正常な代謝や身体の機能維持に必要な水分やミネラルが、不足している状態のことを言います。
つまり、熱中症は梅雨から夏にかけて警戒する必要があり、脱水症状は熱中症の他にウイルス感染等による嘔吐や下痢でも引き起こされるもので季節を問いません。
脱水症状は熱中症の症状の一つであるために混同されがちですが、どういったタイプの飲料で水分補給するべきかのポイントにもなりますので、頭の片隅に入れておいてください。
熱中症対策飲料を比較
栄養成分と原材料
それでは、市販されている【スポーツドリンク、経口補水液、麦茶】の栄養成分表示を比較してみましょう。いずれも2024年7月現在、公式ページに載っているデータを採用しています(アイテムリニューアル等で内容が変わることがあります)。
塩分補給としての飲料
基本情報として、厚生労働省が熱中症対策飲料として推奨している食塩相当量は、0.1g~0.2g/100mlです。概ねすべての飲料でこの基準をクリアしているように見えますが、こちらの表では麦茶のみ650ml当たりのデータを採用しています(公式ページより)ので、麦茶の食塩相当量は100ml当たり0.03gほどということになります。麦茶といえばミネラルが豊富なイメージがありますが、こうして比べてみると厚生労働省が推奨する熱中症対策飲料としての基準には及ばないことがわかります。麦茶で熱中症対策するときにはプラスアルファの塩分を別に用意する必要がありますね。
脱水対策として糖は必要か?
一方で糖やカロリーが気になる方には麦茶は魅力的ですね。エネルギー源となる三大栄養素、タンパク質・脂質・炭水化物のうち、いずれの飲料もタンパク質と脂質は0g。炭水化物の含有量によってカロリーが決まっています。
しかしここで大事な注意点があります。カロリーは低ければ低い方がいいし、炭水化物は控えめにしているという方もいらっしゃるかもしれませんが、今回は「熱中症対策」としての飲料を評価しています。その点で言うと、炭水化物(糖)はある程度含まれていた方が理想的です。塩分(ナトリウム)の吸収を炭水化物(糖)は促進してくれて、同時に水分も吸収されるというメカニズムを私たちの身体は持っているからです。
失われた成分を飲料によって身体に入れることの他に、腸管を通っていくその飲料(飲食物)から必要な栄養を効率よく取り込む私たちの身体の仕組みも考慮されていると心強いですね。
栄養成分と原材料
Montain, S. J.ら(2007)の報告によると、汗の成分(陽イオン)はナトリウム86.3mg/100mL、カリウム22.2mg/100mL、カルシウム:1.6mg/100mL、マグネシウム:0.13mg/100mLとなっています(銅、亜鉛についても述べていますが、今回取り上げた飲料にこれらを含むものがないので割愛)。大雑把に計算すると、汗に含まれるミネラル分はナトリウム50:カリウム14:カルシウム1:マグネシウム0.1くらいの比率です。この汗のミネラル構成に最も近いのは大塚製薬スポーツドリンクのポカリスエットです。「スエット」というだけあって、汗の成分を意識した構成になっています。
他の2つのスポーツ飲料のミネラルの比率は、ポカリスエットほどではありませんが概ね汗の成分に寄せている傾向がみられます。グリーン ダ・カ・ラは自然由来の素材を多用しているので成分にばらつきが出やすくなるようですが、ひょっとしたら吸収効率がいいなどのアドバンテージがあるかもしれません(あくまで個人の想像です)。また、スポーツドリンクにはアミノ酸やクエン酸が含まれているものがあり、これらは疲労回復の目的で加えられていると考えられます。スポーツによる発汗にはアミノ酸やクエン酸が含まれている飲料が助けになります。発熱による発汗であれば、汗に近い成分のポカリスエットを選ぶ、というのもありでしょう。
ただし、かいた汗と同じ成分を補給するのがベストかどうかはまた別の話です。汗として出ていった成分のうち、口から補給するのがいいものもあれば、身体にあらかじめ蓄えられているミネラル分を使ったりするものがあるかもしれません。全てのミネラルの吸収・代謝・排泄の過程を私たちは正確に把握できてはいませんので、ある程度は動物としての勘に従って「口に合う」飲料を選んでも間違いではないのでしょう。
原材料名をよく見ると、香料や酸化防止剤のビタミンCなどが入っています。ビタミンCは健康的なイメージがあるかもしれませんが、こうして食品に添加されるビタミンCはレモンなどの天然由来ではなく、保存性を高める目的で人工的につくられている化学物質です。できるだけなナチュラルなものをとりたい、人工的な飲料の風味が苦手という方は、こちらのレシピを参考に夏の飲料を手作りしてみてください。
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消費者庁お墨付きのの表示許可をもつ経口補水液とは
消費者庁から個別評価型病者用食品の表示許可をもつ大塚製薬オーエスワンは、脱水症のための食事療法(経口補水療法)に用いる経口補水液です。
一般に下痢や嘔吐、発熱、激しい発汗などによる軽度~中等度の脱水症の治療に用います。熱中症、および脱水症状はこれと言って決まった症状が必ず現れるわけではありません。「あの症状がないからまだ大丈夫なんじゃない?」などと楽観視せず、状況から熱中症や脱水症状であると判断される場合は速やかに治療にあたる必要があります。
一方、公式ページに「脱水症でない方が、普段の水分補給として飲用するものではありません。」と明記されています。
「運動中の発汗を補おう」とか「汗をかいたから水分補給しよう」という日常の場面で飲むのはスポーツドリンクやお茶です。オーエスワンは一般的なスポーツドリンクよりも電解質濃度が高く、糖濃度は低い組成となっています。
電解質をたくさん含む経口補水液は、必要のない場面で多用すると下痢を起こすこともありますし、高血圧の方や腎機能が低下している方も注意が必要です。使う場面を見極めましょう。治療のための飲料です。もちろん、必要な場面ではためらわずに使い、その上で病院へ行くこともお忘れなく。
ミネラルの吸収には腸内環境も大事
汗で失われやすいミネラル分ですが、慢性的に不足している体質の方も多いです。普段からサプリメント等で補っていても、吸収効率の悪い体質では成果をあげられないこともあります。栄養素をサプリメント等で補うことよりも、それらをきちんと吸収できる身体を作る方が優先度は上といえるでしょう。いい食事で身体を作り、またその食事から十分な栄養素が得られるという循環は夢幻ではありません。本来、人の身体はそうするようにできていますので、これを邪魔している悪しき習慣に気づくことが第一歩です。
ミネラルを含め、多くの栄養素の吸収効率を決める要因のひとつに腸内環境があります。今回調査した熱中症対策飲料のいくつかにも含まれる人工甘味料は腸内環境を乱すことがわかっています。そうしたものは日常的、継続的に摂取することは避けた方が無難です。食品ラベルの文字は細かくて読むのも大変ですが、身体に入れるものがどんなものか、正体不明の化学物質がどれほど入っているのか、気にする習慣があっても罰は当たらないでしょう。
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まとめ
汗を大量にかいたときの水分補給は、食塩相当量0.1g~0.2g/100mlの飲料が望ましいです。「消費者庁許可病者用食品」の表示があるものは軽度から中等度の脱水症状に用い、普段の水分補給にはむきません。
毎日飲むことになる熱中症対策飲料なら断然手作りがおすすめです。天然塩をつかってナトリウム以外のミネラルも上手にとりましょう。このときに一緒に糖が入ることで水分もナトリウムも吸収効率が上がります。糖は人工甘味料ではなく、ハチミツや甜菜糖など、やはり天然のものをつかいましょう。アミノ酸やクエン酸は疲労回復に役立つので、運動による発汗にはぜひプラスしたいところです。手作りするなら梅干しやレモンなどが使いやすいですね。
市販のスポーツ飲料などを利用するときは栄養成分表示や原材料を見ながら、目的に合ったものを選んでください。自分の身体がどんな反応をするか、供給不足と過剰の両方に気を付けて観察することもお忘れなく。アクティブな夏をお過ごしください。
【参考文献】
・サントリー グリーン ダ・カ・ラ 公式ページ
・コカ・コーラ アクエリアス 公式ページ
・大塚製薬 ポカリスエット 公式ページ
・大塚製薬 オーエスワン 公式ページ
・伊藤園 健康ミネラル麦茶 公式ページ
・Sweat mineral-element responses during 7 h of exercise-heat stress. Montain SJ, Cheuvront SN, Lukaski HC. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2007 Dec;17(6):574-82.