漢方薬店kampo’s薬剤師の鹿島絵里です。現代ならではの目線と評価で、漢方の役立つ情報を発信していきます。
季節はいよいよ夏。外気に触れれば暑く、建物の中ではキンキンに冷やされ、暑い環境と寒い環境を行ったり来たりする機会が増えるこのシーズン。私たちはどのように過ごすのがいいのでしょうか。
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二千年前の医学書が教える夏の過ごし方
およそ二千年前にまとめられた中国医学の古典で、漢方家たちがバイブルと仰ぐ書物のひとつ『素問そもん』には、人間のあるべき生き方が書かれています。
健康で長生きしたいのなら自然の法則に逆らってはならず、気候の変化に順応して自分の生活を律しなさい、と説いています。
素問の中で夏の三か月間を「蕃秀ばんしゅう」といいます。「蕃」は草木が盛んに生い茂るという意味です。つまり夏とは天地の気が活発に交流して、生きとし生けるすべてのものが花咲き実る盛んなとき、ということです。
「人においては、夜更かしせず朝は早起きして、日が長いからと漫然と過ごしてはいけない。天地の気がそうであるように、人間も活発に動いてエネルギーを巡らせるといい。気持ちは怒らずにのびのびとさせて、体の内へ陽気をこもらせずに外へ解放してあげなさい。」と。つまり人間の心と体が、開放的でエネルギッシュな夏の季節の性質と一致するようにしてあげるのが、古代中国人の心掛けたことでした。
・活発に活動する
・イライラせず、のびのびと過ごす
現代の夏は二千年前より厳しい?!
二千年も前と現代とでは、人々を取り巻く環境も当然違いますし、夏の「暑さ」の厳しさにも差があることでしょう。ですが、『素問』にはごく基本的な原則が記してあり、これは二千年前に生きた人々にも現代を生きる私たちにもどちらにも当てはまります。
さて、では具体的に現代人は夏をどう過ごすのがいいのでしょうか。冒頭で触れた「暑い環境と寒い環境を行ったり来たりする」ことと、「夏日、真夏日、猛暑日」などの高温にさらされることについて考えてみましょう。
暑い、寒い、二極の夏
多くの人が利用する建物や電車車両は、エアコンがよく効いていてとても涼しいです。時には寒いくらい。熱中症による体調不良者を出さないようにという狙いがあるのでしょう。ですがここに長時間とどまることは、当然体を冷やしますし、決して望ましい環境ではありません。
また建物から一歩外に出たり電車ホームに降り立った瞬間、熱せられた外気に触れて汗が吹き出ます。こうした温度差の大きな環境を行き来すると、思っている以上に疲れます。人の体は体温を一定に保とうとするので、暑ければ汗をかいて体温を下げ、寒ければ震えながら体を温めます。この二極を行き来することは、代謝のスイッチを頻繁に切り替えることですので、疲れるのは当然ですよね。疲れれば「活発に活動する」ことは難しくなり、また疲れて思うように動けないことで「イライラ」もしやすくなり、「のびのびと過ごす」ことはさらに遠のいてしまいます。
熱帯夜を過ごす
日が暮れても逃げ場のない暑い空気の中、就寝の時間を迎えます。夏の夜、エアコンをつけたまま寝ることに抵抗のある方は、オフタイマーを利用することがあると思います。寝入りを涼しくして一晩ぐっすり。これは理想的ですね。一方で、タイマーが切れると暑くて目がさめる、その度にタイマーを設定しなおす、こんなことを繰り返すようでは、いい睡眠はとても取れません。寝たか寝ないか分からないままに朝を迎え、疲れはとれず、日中に活発に活動することもままならず、もちろん早寝早起きもできない。『素問』の提案とは全く違うことになっています。
秋の準備も始まっている
さらに素問にはこう続きます。「養生法を間違えて鬱々としたりエネルギーを外へ出さないと、夏に盛んに活動する五臓のひとつ心しんの臓が傷害されて病となる。すぐに発病しなくても、秋に病が表面化する。」
夏を快適に過ごすのはもちろんのこと、秋にうつろう準備のためにも、過ごし方に気を配る必要があるということですね。
『素問』の養生方法を実践するには
エアコンは恐れずに使うべし
夏は暑いのが基本ですから、ある程度は暑さに身体を慣らしておくことが大事ですが、だるくて疲れるほどの暑さにはエアコンを適切に使うことも忘れずに。そして不調をきたすほどの温度差は回避する工夫を。
羽織り物を用意して空調の効きすぎた環境に対策したり、一晩ぐっすり眠れるように室内の温度を予め調整して就寝するなど、目安は「早寝早起きができて、日中は活発に動けて、心ものびのびしている」状態が保てることです。これができないときは、どこかに不足や行き過ぎがあると考えて、養生方法を見直してみてください。
内臓の温度を下げない
冷たい飲食で消化器の機能を落としてしまわないようにも、意識してほしいです。冷たいものが欲しいと思っても、本当に欲しいのは最初のほんのひとくちかふたくちほどではないでしょうか。空調の効いた環境に長時間いるのであれば、氷入りの飲み物をとらずに内臓の温度を適切に保った方が夏バテはしにくくなります。
夏バテ防止に「動いて休む」
太陽の季節である夏、健康にこの季節を謳歌するのは大変すばらしいですが、特に昨今、命に関わるほどの暑さが続くこともあります。活発に動くことと、ぐっすり眠ることはセットです。一年の中でもっとも体力を消耗する夏、適切に補って、活発に過ごしましょう。