管理栄養士・国際中医薬膳師の趙みどりです。「食」を大事にする韓国伝統医学、韓方(ハンバン)の魅力をお伝えします。
韓方といえば必ず出てくるのが「東医宝鑑」(とういほうかん)と「四象体質」(ししょうたいしつ)です。今回はこの2点についてお話します。
Contents
身近な薬草がわかる『東医宝鑑』
ホジュンという韓国ドラマをご覧になった方もいらっしゃるかと思います。
『東医宝鑑』は今から約400年前の韓医師、許浚(ホジュン)によって編纂された医学書で、2009年にユネスコ世界記録遺産に登録されました。
当時、貧しくて治療が受けられなかった民でも身近な薬草で病気の予防や治療ができるようにとまとめられ、韓方医療を一般市民にも広めることとなりました。現在でも韓国では韓医師のテキストとして使用されています。
全25巻、25冊あり、目録だけで2冊にもなります。
【内景篇】 内科に関するもの
【外形篇】 外科に関するもの
【雑病篇】 その他疾病、婦人科、小児科
【湯液篇】 薬剤に関するもの
【鍼灸篇】 鍼灸、ツボについて
とても難しい本ですが、2021年10月に内景篇・外形篇を日本語訳された本が誠心出版さんより発行されました。内容は、人体、精、気、神、血、津液、痰飲と続き、それぞれの特徴、症状別の方剤などが書かれ、そして最後に必ず「単方」というのが出てくるのが特徴です。貧しくて薬を手にすることができない市民が身近な材料で用いて症状を緩和することができるよう、許浚(ホジュン)がまとめたものです。
その後のページも五臓六腑(肝臓、心臓、脾臓、肺、腎臓・・・)と臓器別の特徴、症状が続きます。ここでもそれぞれに「単方」が出てきます。例えば、肺のページですと全部で22種類の「単方」が書かれ、効能や飲み方が記されています。
当時の市民が医師にかかれなくても「単方」を知るだけでセルフケアできるのはとても助かったと思います。興味のある方は一度ご覧になってみてくださいね。
引き込まれる面白さ!四象体質とは
私が『東医宝鑑』というものを知ったのはドラマではなく、韓方のセミナーでした。初めて聞く「食治」という言葉や薬草を用いて不調を治すということ、そして病気にならないように心がける「養生」という考え方に出会い、とても心がワクワクしたのを思い出します。
それからはお茶でセルフケアをする韓方のティーセラピーに出会い、さらには「薬膳」という分野にも興味を持ち、そこからベースとなる中医学を学びたいと思いました。
こうしてどんどん中医学、韓国独自の韓方などにはまっていったのでその楽しさ、私が感じたワクワク感をこれからこちらのコラムで少しずつ共有できればと思います。
四象体質それぞれの特徴
四象体質は韓国医学の父と呼ばれる李濟馬(イジェマ)によって体系化された体質医学で1894年に『東医寿世保元』にまとめられました。現在でも韓医師が現場で活用しているそうです。
こちらも日本語訳が出版されています。
李濟馬(イジェマ)は喜怒哀楽の感情の変化が臓器に影響を及ぼし、感情の偏りが病を重くさせると考えました。
肝、脾、肺、腎の臓器の大小により人間を4つのタイプに分け、それぞれ太陽人、太陰人、少陽人、少陰人と名付け、体質ごとの薬の種類や養生の仕方、体質に合う食べ物、合わない食べ物などが記されています。
合う食べ物:貝、葡萄、ナマコ、きゅうり
合わない食べ物:牛肉、砂糖、大根
合う食べ物:牛肉、銀杏、サツマイモ、松の実
合わない食べ物:鶏卵、鶏肉
合う食べ物:豚肉、麦、ナマコ、きゅうり
合わない食べ物:鶏肉、牛肉、牛乳
合う食べ物:粳米、羊、鶏、じゃがいも
合わない食べ物:蕎麦、白菜、乳肉、牛乳
例えば少陽人の体質の方の場合、怒りの感情が激しいと脾胃の機能が過剰になるので気を付けるとか、腎臓が弱いので骨や腰、腎臓をいたわるなど、自分の体質に合わせた養生ができます。
四象体質といえば、それぞれの特性として体形、顔の特徴、性格、話し方、なりやすい病気、合う食べ物、合わない食べ物など細かく分類された資料もあります。
大雑把に見えて奥が深い四象体質
大勢の人がいる中で、人間を4種類に分け、しかも体形などから性格も分類されているので、面白い反面、初めは疑問に感じた部分もありました。
「人はたくさんいるのにたった4種類に分類なんて・・。体格から性格も決められるなんてあるのかな?」
自己分析も面白い
例えば私の場合は食事の席で韓医師に「脈など診察してみないとどちらかははっきりとはわからないがあなたは少陽人か少陰人」と言われたことがあります。
さっそく自宅で特徴を調べてみると、少陽人は脾が大きく、腎が小さい。少陰人は腎が大きく、脾が小さい。少陽人は活発な性格、目的がみえたら情熱的に励む。少陰人は分析をよくする現実的な性格、仕事の順序と真実さを重要視する。などと書かれてありました。
なるほど、どちらも当てはまる部分があるなと思いました。その他いろいろと読み進めた結果、腎機能の低下を自覚していたので少陽人の部分もありそうでしたが、性格的な部分と体格の特徴とで私は少陰人が当てはまりそうだなと仮定しました。
四象体質を日常に生かす
少陰人について読み進めると外見はお尻が大きく、胸が狭く、体格は小さく、消化機能が弱い。静かに話すタイプ。ふむふむ。ここで、体質別のかかりやすい病気が書かれているのが目に留まりました。
少陰人は胃腸機能、心臓機能が弱い。冷え性に気を付ける。時には腎臓の熱が多いため腎臓疾患が起こることも。
そして体に合う運動は散歩、ジョギングなどの軽い運動、上体と心臓を発達させる運動、とあります。
胸が狭い体格(上半身が華奢)だから上体を鍛える運動をする、とか冷え性になりやすい体質にあう温かい食べ物をとる、という養生法を読み進めるとなるほどと思い、いくつか試してみようと思いました。私の場合は鶏肉やなつめ、にんにく、唐辛子、にら、生姜、ねぎなどがいいのだとか。思いついたのは簡単サムゲタンです。ちょっと弱ってるなと思うとき、時々作って食べるようにしています。
体質チェックは一般の書籍に記載されているものもありますが、より正確に体質を知りたい場合は、やはり韓医師の診察が必要になります。
ちなみに太陽人と言われる人はとても少なく、韓国人の1%以下なんだとか・・・。海外に行きやすくなったら、韓国の韓医院を訪ねてご自分の体質を診てもらうのもいいかもしれませんね。
次回からは、韓方茶についてのお話です。
【参考文献】
黒田福美の韓方案内 2020年11月6日 ウリアカデミー株式会社
東医寿世保元 平成10年2月20日 株式会社 三冬社
完訳 東医宝鑑 2021年10月8日 誠心出版