呼吸を制するものは心身を制す

理学療法士&ピラティス指導者の長尾知香です。
やっとコロナ騒動が一段落したと思ったら、今度は記録的な猛暑、豪雨の連続で、地球環境の問題に直面しています。より外的・内的ストレスに強い心身を求められる時代となってきていると、切に感じています。
それでも、やっと待ち望んだ秋の空気が漂うようになると、季節の変わり目で体調を崩しがちになりますから、ここで中医学でも秋の養生としてキーワードに挙げられる「肺」のケアにうってつけな「呼吸」を使った心身ケア方法について、ご一緒に学び&実践しましょう。

「呼吸は人生最初の行動であると同時に、最後の行動でもある」

これは、ピラティスの創始者であるジョセフ・ピラティスの言葉です。意味深いというか、一瞬ドキッとする言葉ですが、確かに真実ですね。生まれた時から死ぬ時まで、息を吸ったり吐いたりしています。
安静にしている時の平均的な呼吸回数は、1日で約2万~2万5千回、そして80歳まで生きると6億~7億回に達すると言われています(参照:「深呼吸をしましょう」日本医師会ホームページ)。
呼吸とは、これだけの回数行う筋肉を使った運動ですから、効率よく行えるとより身体の疲労なく負担なく過ごせるようになり、よい養生法になります。
また、呼吸で使う筋肉はインナーマッスルと呼ばれる、体の奥にあるよい姿勢を保つのに使う筋肉でもありますので、これらをトレーニングすることで、より疲れにくい身体の使い方を獲得することも可能です。

さらに、もっと素晴らしいのは、呼吸の際に一番使う筋肉である横隔膜には、迷走神経が絡みついており、横隔膜を動かすことでこの迷走神経を刺激し、その主要な神経経路である副交感神経を刺激します。つまり、横隔膜を使って深く呼吸することで、オートマチックに働く自律神経ですら、意図した通りに随意的にバランスを変えられる可能性が大なのです!
一石二鳥どころか、一石三鳥。しかもカラダだけではなく、自律神経にも働きかけてココロも整えることができるかもしれない。これは、呼吸トレーニング、やるっきゃないですね(^^♪

「最も簡単で寝たきりの人でもできる運動療法」とは?

私が理学療法士養成校に通っていた1年生の時の口頭試問で「最も簡単で、寝たきりの人でもできる、道具も必要ない運動療法は何?」と質問されました。えー、分からない…「ヒント、漢字で三文字」と言われ、ますます分からずで、結局、教授が答えを教えてくれました。それは「深呼吸」。確かに!と感心しました。
では、早速、呼吸すると身体がどのように動くのか、簡単に見ていきましょう。
通常、息を吸った時は、肋骨が広がり、横隔膜が下がって内臓を押し下げるので、お腹が膨らみます。逆に息を吐いた時は、肋骨は狭まり、横隔膜が上がって内臓が元に位置に戻り、お腹が引っ込みます。
肋骨が広がったり狭まったりする呼吸パターンを、胸式呼吸と言います。肋間筋という肋骨の間の筋肉などを使って、胸を動かし肺を伸び縮みさせます。

お腹が膨らんだり引っ込んだりする呼吸パターンを、腹式呼吸と言います。これは横隔膜という筋肉を使ってお腹の内圧を変えることで肺を膨らましたり縮めたりするため、横隔膜呼吸とも呼ばれています。

肺自体は、自力で伸び縮みする機能がないため、このように胸やお腹を動かして呼吸しているのです。ちょっと面白いですね!

赤ちゃんは胸が未発達のため、腹式呼吸しています。成長するにつれ、胸式呼吸と腹式呼吸の両方を使えるようになります。そして、大人になると、身体を起こして過ごしている時は、ほとんどの方が胸式呼吸をしていると言われていますが、男性の場合は、腹式呼吸をしている方の割合が女性より多いと言われています。
また、先ほどお伝えしたように、腹式呼吸=横隔膜呼吸をすると、副交感神経にスイッチオンすることが可能ですから、リラックスしている時は腹式呼吸が優位になり、逆にイライラしたり不安な時などは胸式呼吸が優位になります。
私は運動指導の前に、呼吸パターンの観察をさせてもらうことが多々あるのですが、人それぞれに違います。体調やその日の気分によっても変わるようなので、逆にご自身の呼吸パターンを胸式、腹式、浅い、深いなどと日々観察し、体調や気分などと照らし合わせると、心と身体のセルフコントロールに役立つかもしれません。

横隔膜を動かして心身コントロールしよう

さあ、早速、実践してみましょう。
呼吸トレーニングは、最も古典的な運動療法でもありますし、仏教国でもあった日本では古くから呼吸法として様々なやり方や理論があります。今回は、その中でもおススメの横隔膜を使った2つの呼吸トレーニング法をご紹介します。呼吸トレーニングを行う際に、1つだけ注意点があります。それは、やり過ぎ注意、です。過度に呼吸をしてしまうと、二酸化炭素の濃度が下がり過ぎてしまい、めまいや頭痛などを引き起こしてしまいます。ゆっくり、落ち着いて行い、時間も短めに1-2分程度から始めましょう。
また、デスクワークが多く身体が硬い方は、まず、横隔膜が動きやすいように、その周りの筋肉をストレッチしてから呼吸トレーニングするとよいので、椅子を使って行えるストレッチをご紹介します。

1.体側、背中、腹直筋(お腹の前の筋肉)、腸腰筋(モモ上げの筋肉)のストレッチ

ストレッチは、筋肉が気持ちよく伸びる感覚がある程度で止め、30秒ほど息をとめずにその姿勢をキープするとよいでしょう。各ポーズとも、3-5回程度行えば十分です。

体側上部のストレッチ(反対側も同じ要領で行いましょう)

体側下部のストレッチ(反対側も同じ要領で行いましょう)

背中のストレッチ

 

 

腹直筋、腸腰筋のストレッチ(足は反対側も同じ要領で行いましょう)

 

2.腹式呼吸

一口に腹式呼吸といっても、○○式や○○法など様々なやり方がありますが、今回はオーソドックスなやり方をご紹介します。

スタート・ポジション:どんな姿勢でも可能、おススメは座位、仰向けで両ひざを立てた姿勢。みぞおちやおへその辺りを手で触れておくと、お腹の動きが分かりやすい。

①肩や頚、アゴの力を抜いて、息を吸ってお腹を膨らます。横隔膜は下方・足側へ縮み、内臓が押し下げられ、その分肺に空気が入ることをイメージするとよい。布袋様のお腹のようなイメージで膨らませる。

②今度はゆっくり力まずに息を吐き、自然に膨らましたお腹を戻していく。横隔膜は上方・頭側へ緩み、押し下げられた内臓が戻るって膨らんだお腹が元に戻るイメージ。

*ゆっくり落ち着いた状態で1-2分程度行うとよいでしょう。

 

 

3.IAP呼吸

最後に、お腹の中の圧力を高くしたまま吸ったり吐いたりする呼吸トレーニング法です。IAPとは、Intra Abdominal Pressure=腹腔内圧 の頭文字をとって呼ばれています。アメリカのスタンフォード大学で実践されていた呼吸トレーニング法です。同大学のアスレティックトレーナーである山田知生氏が日本で書籍や動画配信をしていますので、参照されるとより理解が深まるでしょう。

スタート・ポジション:どんな姿勢でも可能、おススメは座位、仰向けで両ひざを立てた姿勢。脇腹の辺りを両手で挟むように触れておくと、お腹の動きが分かりやすい。

①4秒かけて、息を吸って最大限に横隔膜を下げて、脇腹にあてた手がお腹で押し返されるようにお腹を膨らます。

②お腹を膨らましたまま・脇腹にあてた手を押し返したまま、口から静かに少しずつ6秒かけて息を吐く。

*息を吸って吐く、を1セットとして、5セット程度行うとよいでしょう。

 
 
 
いかがでしたでしょうか?
ただ深呼吸するだけでも、十分に運動療法として体幹のインナーマッスルを使っています。いつでも、どこでも、道具も要らない、簡単、安全な運動療法として、呼吸トレーニングをぜひ実践してみてください。
きっと、長息=長生きできますよ(^^♪しかも、健康寿命=寿命で、ぴんぴんころり、できる可能性大です!

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