理学療法士&ピラティス指導者の長尾知香です。
今回のテーマは、「骨活」。
私自身、約1年半前に足を脱臼骨折してしまい、定期的に撮影した足の骨のレントゲン画像を見て、改めて「人間の身体ってすごい!骨って大事!!」と痛感しました。骨によい運動って何だろうか、と改めて考えさせられました。では、一緒に見ていきましょう。
事の始まりは右足関節開放性脱臼骨折
事の始まりは、沢登りで4メートルの滝の最上段から滑落し、右足首を完全に脱臼、スネの骨が皮膚を突き破り(=開放性骨折)、スネの外側の骨もバラバラに折れる大怪我をしてから。3度の手術で、骨折部分はチタンプレートで固定、関節は骨にドリルで穴をあけ人工靭帯を挿入し、皮膚の欠損部分は皮膚移植をしました。
そこから定期的に受診し、レントゲンやCT画像で骨の状態をチェックすること約1年半。
体重がかけられない状態、体重をかける許可が下りたものの松葉杖歩行の状態、1本杖で歩けるようになった状態、杖なし歩行できるようになった状態…とレントゲンに写る骨の状態は、如実に変化していき、緩やかではあるものの、確実に骨が再形成されていくのを目の当たりにして、生きていることの素晴らしさを実感しました。
生きている限り、新陳代謝し続ける身体
私は高齢の方のリハをすることも多いので、「関節が痛くて受診したら、加齢のせいって医者に言われて…もう年だからこれ以上よくなることはないんですよね?」と質問されることが多々あります。その時、私はいつもこう答えています。「確かに重力に長年さらされて関節が痛んでくるのは、お年を重ねると仕方ないことですが、生きている間はずっと、新陳代謝して部品を作り変えているんですよ。大人になると、背が伸びないからピンとこないかもしれませんが、骨も少しずつ壊して作り変えているんです。ですから、使わないと、そこは補修不要ということで、どんどん退化していきます。逆に、適切に使っていくと、最適な代謝産物に置き換わっていくので、生きている間は、骨だけではなく関節の機能も十分変えられる可能性がありますよ。」と。
さあ、この骨の新陳代謝について、もう少し詳しく紐解いていきましょう。
骨は、成長期に形成された後は、成人になるとほとんど増加することはありません。つまり、もう背が伸びたり身体が大きくなることがなくなるのです。そして、今度は形成ではなく再形成=リモデリングされていきます。少しずつ、今ある骨を壊し、そして新たに作り変えているのです。破骨細胞が骨を壊し、骨芽細胞が新しく骨を作り替えていきます。
これは、常に骨を健全な状態に修復維持し、なおかつ新しい負荷に対しても適応できるようにするためです。というのも、例えば、今までよりも重いものを持つ必要があったり、新たに激しい運動を始めたりすると、より強い骨でないと折れてしまいます。このことは、「骨はそれに加わる力に抵抗するのに最も適した構造を発達させる」とする「ウォルフの法則」としても知られています。人間の身体って、巧妙ですね!
骨は素早く壊され、ゆっくり作り替えられる
骨の再形成=リモデリングは大体1~4年毎に繰り返されます。このうち、骨を吸収・再形成するリモデリング期は2~5カ月程度になりますが、破骨細胞による骨吸収は約2~4週と短く、その後の骨芽細胞による再形成は2~4カ月と長きに渡ります。つまり、骨は急激に壊され、ゆっくり再形成された後、しばらくそのまま、という周期を繰り返しています。
川口浩「骨粗鬆症の基礎と最近の話題」リハ医学2019 より改変
私の実際のレントゲン画像をみてください。
2回目の手術で骨折部分にチタンプレートを挿入・固定してもらい、そこから8週間は体重をかけてはいけませんでしたので、約3週間後のレントゲン画像でも、骨はほとんど変化していません。体重をかける許可が下りてからは、少しずつ変化し、7カ月後にやっと骨折部分がつきました。
その後、チタンプレートをはずした際は、スクリューねじの穴は、すぐに体重をかけて歩いてよかったのと、プレートがない分血行もよかったのか、埋まりが早く始まり、7カ月後はすっかり修復されています。
ちなみに、一番代謝サイクルが早いのは小腸で、なんと2日くらいで入れ替わってしまいます。骨はスローライフですね!
そんなスローライフな骨ですが、加齢と共にその新陳代謝の質が変化します。
破骨細胞と骨芽細胞のバランスが均等であれば、マイナス分とプラス分が等しく、骨の量は変わりません。しかし、30歳半ば頃から、この破骨細胞と骨芽細胞のバランスが崩れ、破骨細胞が優位になってしまうことで徐々に骨の量が減ってしまいます。個人の骨の量の最大値(=最大骨量)は、6~8割が遺伝的要因であるとされていますが、残りの2~4割は主に生活習慣に影響を受けるとされていますので、食事や運動、適切な医学的介入(服薬など)で、その急激な減少を最小限にすることが可能です。
ウォルフの法則を実践して効果的な「骨活」をしよう
ここまで知れば、やるっきゃないのが、「骨活」ですね!今回はその「骨活」の中での運動面でのコツについてお伝えします。
体重をかけた運動をすることで骨に負荷が加わると、骨にはマイナスの電気が発生し、カルシウムが沈着しやすくなり、より強い骨が形成されやすくなります。また、骨の周囲の血流も運動で促されるため、骨芽細胞の働きも活発になります。
では、実際にどんな運動が「骨活」に良いのでしょうか。アメリカのスポーツ医学会による骨の健康のために推奨される運動指針によれば、やはり骨への負荷が加わる体重をかけての運動、ジャンプや走りを伴うスポーツ、ウェイトリフティングが挙げられています。具体的な例として、テニス、階段を昇る、ジョギング、バレーボール、バスケットボールが列記されています。また、強度は中等度以上、1日30~60分、週3-5回とされています。つまり、効果的な「骨活」は、簡単に言えば、ちょっと息が切れるくらいの、体重をかけて行える運動で、寝て行う運動ではないものを、小一時間、2日に1回くらいでやる、といったところでしょうか。
もちろん、やり過ぎはかえって身体に炎症反応を起こしてしまい、本末転倒ですから、ご自身の身体の調子と相談しながら、最適な骨活を探って実践してみてください。ちなみに、私は改まって運動すると続かないので、日常生活の中で、通勤は大股&早歩き&靴底のクッション性の少ない履物、エレベーターやエスカレーターを使わず階段を昇り下り、をしています。通勤だけでも往復すると45分くらいの運動になるし、無理なく続けられています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。