漢方薬店kampo’s薬剤師の鹿島絵里です。現代ならではの目線と評価で、漢方の役立つ情報を発信していきます。
暑くて長い日本の夏。真夏日、猛暑日、さらには酷暑という言葉まで使われるようになり、暑さに対する感覚がマヒしてきます。「夏日」くらいなら過ごしやすい印象さえ受けてしまうほど?!
困ったことに、この暑さが更年期のホットフラッシュの引き金になることがあるようです。
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ホットフラッシュは夏に起こりやすい?
ホットフラッシュは上半身の特に顔や頭に、突然の発汗やほてり、のぼせが起こる症状です。見た目にも赤くなったり汗が滴ったりと分かりやすく、症状そのものが不快であることに加えて、人前で居心地の悪い思いをすることもあります。濡れたタオルなどで物理的に冷やすことでも対処可能ですが、そもそもホットフラッシュが出にくい体質を作ることはできないのでしょうか。
漢方薬にはホットフラッシュに有効な処方がいくつかあります。体質別に用いるものですので、ある処方がすべての人のホットフラッシュに有効というわけにはいきませんが、ピッタリ合うものが見つかれば大きな助けになるでしょう。代表的なものをいくつかご紹介したいと思います。
ホットフラッシュに有効な漢方薬
足の裏がほてる人のホットフラッシュに「温経湯」
ホットフラッシュの症状とは別に、「足の裏がほてってなかなか眠れない」というお悩みを抱えている人におすすめなのが温経湯うんけいとうです。夜、足の裏にほてりを感じてなかなか眠れず、布団から足だけ出しているのは“体の熱をさます陰の力が足りない体質”ととらえられます。温経湯というネーミングは積極的に体を温めてくれそうで、ホットフラッシュには逆効果なのではと思えますが、そうではありません。
足の裏や手のひらに熱を感じたり、精神的に不安だったり落ち着かなかったりといった心の熱症状を、まとめて五心煩熱ごしんはんねつといいます。手足は実際に熱いこともありますが、ほてりを感じるだけでそれほど熱くない場合も多いです。こうした五心煩熱の症状は、陰陽の陰が足りていない時に起こります。手足はほてるのに下半身の冷えをともないやすいのがこの体質の特徴です。燃え盛る熱ではなく、冷却力不足による手足のほてりと下半身の冷え、こうした症状の出る体質には陰を補う処方が有効というわけです。
温経湯には陰を補う作用の強い麦門冬や阿膠、さらに血の巡りをよくして熱のバランスをとる生薬が組み合わされています。ホットフラッシュのみならず、多くの更年期症状や生理に伴うトラブル、不妊治療などにも頻繁に使われる処方です。
イライラ、寝汗のあるホットフラッシュに「知柏地黄丸」
知柏地黄丸ちばくじおうがんは温経湯と同様に、陰が不足している体質に用います。陰を増す基本処方に、強力に熱を冷ます知母と黄柏がプラスされているのが特徴です。
暑いこととは無関係に、寝ているときにびっしょりと汗をかく体質の人のホットフラッシュに効果があります。寝ているときにやたらと汗をかく、いわゆる寝汗は、陰の力の不足の度合いが強い、または慢性化していることを示しています。冷ます、鎮静化する力が極端に乏しいため、イライラしやすく、暑さに加えてストレスもまたホットフラッシュの引き金になることが多いです。このように陰の不足を拗らせて日常的に寝汗をかく体質は、腰痛や耳鳴り、骨粗しょう症など、加齢に伴う症状にもつながりやすいです。たかが寝汗、たかがホットフラッシュと侮らずにしっかりケアしておくと今後も安心です。
子宮筋腫や子宮内膜症があった人のホットフラッシュに「桂枝茯苓丸」
子宮筋腫や子宮内膜症は閉経に伴って軽快していくケースが多いですが、そうであっても経過観察が必要です。閉経後も思うように良くなっていなければなおさらです。血の流れがよくないことが原因の症状ですので、血流をよくする処方を用います。流れの悪い血は熱をこもらせ、ホットフラッシュを助長します。桂枝茯苓丸けいしぶくりょうがんは強い力で巡りの悪い血を動かします。もし便秘を伴っている場合は、その解消も同時にできる処方を検討してもいいですね。血の滞りと便秘の解消は一緒に行うと効率がいいです。
ホットフラッシュにおすすめの食材
おすすめその1 なつめ
女性のお悩みといえばなつめです。血けつを補い歴史的にも美容食として愛用されてきたなつめですが、一生を通じて女性のお悩みと相性がいいことがその理由です。生理に関するトラブル、妊娠のトラブル、閉経後のトラブル、こうした女性特有のあらゆるトラブルは美容とも密接に関係しています。たっぷりの血けつが隅々までからだを巡る、そんな理想的な女性の体質をサポートしてくれる頼もしい食材です。一日三粒ほど食べると良いと言われています。
疲れた体に癒しと元気を!夏の水分補給に薬膳コーラ 漢方カウンセラーの星川美由紀です。“キッチンから健康に♪”をモットーにお家でできる食養生をお伝えしています。 暑いのに冷えてる?!夏の不調は内臓からやってくる 夏も本番を迎え毎日暑い日[…]
おすすめその2 白キクラゲ
白キクラゲは陰を補う食材の代表です。熱を冷ます力の弱い人、そして乾燥が気になる人にもおすすめです。陰はからだを巡る血けつと水すいを指します。これらは加齢とともに減少していくものですが、日々の過ごし方でそのカーブを緩やかにすることができます。ほてる感じが続く、乾燥に敏感になった、これらに心当たりがあったら食養生に白キクラゲを取り入れてみましょう。
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最後に
夏の暑さが引き金になりやすい更年期のホットフラッシュですが、日頃から「冷ます力」を「巡らせて」おいて、暑さに敏感になり過ぎない下地を作っておくことは有効です。
ご紹介した温経湯、知柏地黄丸、桂枝茯苓丸はホットフラッシュに有効な漢方処方の例の一部です。本文でも触れましたが便秘を伴う場合、また、むくみがある、アレルギー症状が出やすい、不眠、情緒不安定、体力低下など、随伴する症状によってより体質に合った漢方処方が他にある可能性もあります。
また、漢方薬を服用するとともに、日々の生活についても振り返ることをお忘れなく。わかっていてもできない習慣にばかりとらわれていないでしょうか。完璧でなくても、ロールモデルのようでなくても、昨日よりいい過ごし方を実践できたら体は変化していきます。
漢方相談では適切な処方選びはもちろん、個人の生活リズムや体質に合う養生習慣についても一緒にお話をしながら模索していきます。できること、できないことを整理しながら、着実に前に進んでいきましょう。