はじめまして。理学療法士の楠圭司と申します。
現在、児童発達支援・放課後等デイサービスにて様々な障害をお持ちのお子様に対して個別でリハビリを行なう仕事に関わっております。専門的には療育といい、障害のある子ども一人ひとりの発達段階や特性に応じ、将来の自立に向けた支援を行っています。家庭内だけでは対処が難しいことも、専門家や支援機関のサポートが役に立てることがあります。
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当事者以外にも知ってほしい「療育」
療育は療育センターや障害児通所支援(児童発達支援・放課後等デイサービス)事業所などで行なわれます。児童発達支援や放課後等デイサービスは制度や医療的な対応が豊富になってきているとともに、コミュニティによって同じ境遇の方々と接することができるようになっております。自分自身、療育にて障害を持った子供に日々接するとともに、保護者の方が抱える不安をお聞きすることがあります。
少子化と言われている一方で、障害を持つ児童が多くいるという現状があり、公表されている数値以外でも障害を持つ子供の保護者および親御さんは多くおります。周囲と異なることに対して他人に知られたくないと思い、外部環境とは関わらないようにしたり、罪悪感を感じる方もいらっしゃるのが現状となっております。コラムを通して、より多くの人に障害を持つ児童のことを認知してもらいつつ、少しでも明るい未来へとつなげていけたらと思っております。
障害をもつ子供が教育を受ける環境
2020年の推測値では在宅で生活している18歳未満の障害を持った子供の数は約28.2万人と言われています。障害を持った子供が通う学校は、普通級学校、通級指導教室、特別支援級学校、特別支援学校が主になります。
通級指導教室:基本的には普通級にいますが、一部特別な指導が必要な際に、週数回程度移動するクラスのことになります。
特別支援学級:一人一人がニーズに合った教育を受けることを目的とした、8人が基準の小さなクラスになります。普通級学校内にあり、教室及びクラスが普通級とは異なっております。1つの学校の中に普通級クラスと特別支援級クラスが設立されています。
特別支援学校:障害のある子供が通う、自立を促すために必要な教育を受ける学校になります。
平成30年度の統計ではありますが、全国の小学校で82%の割合で特別支援級が設立されています。地域や学区によっては特別支援級がないところもあります。そのため、特別支援級がある学校へと通学するために引っ越しをされたり、保護者が送り迎えをすることもあります。本来であれば、全ての学校に特別支援級があるべきと思います。しかし、支援者の人手不足の問題もあり、全ての学校に設置することが難しい現状となっています。
普通級学校に通う障害を持つ子供はどのくらい?
文部科学省の調査では、2019年において普通級の学校に通う子供の数は134,185名、一年前の2018年に比べて10%も増加しています。この10年で約2.5倍、20年前と比較すると6倍以上となっています。普通級の学校に通う子供の中で、発達障害児の数は、2006年では7000人余りでしたが、2019年には70,000人を超えました。
日本の出生率は低下しており、子供の数は年々減少傾向にあるにもかかわらず普通級の学校に通う障害を持つ子供の数はこれだけ増えている状態になっています。
健康的な子供と同じように学習し、同じように行動していけるように望む保護者も増えているとともに学校自体の受け入れ体制が整ってきているということも考えられます。様々な障害があるため、常に一緒にということ、特に同じペースで同じ分量で学習を行なうことが難しいと思います。これに関しては、支援者の人手を増やすことで解決できるかもしれません。また通級支援教室も一つの手段であると思います。
普通級での生活を送ることも必要かと思いますが、障害もさることながら、個性もありますので、学校生活を送るにあたり、学習、友達や支援者との関わり、環境において負担がかからないようにしていくことも必要と思います。負担が更なる障害をもたらす危険性も考えなければなりません。
通級指導教室とは?
通級指導教室とは、読み書きが苦手だったり、対人関係を築きにくかったりする児童や生徒が、ふだんは通常の学級に在籍し、障害に応じて一部の授業を別の教室などで受けるものです。
子どもの困りごとに合わせて指導内容が異なるため、「ことばの教室」や「きこえの教室」などの名称で、小中学校や特別支援学校に設置されています。
周囲や子供自身が、自分の特性を理解し、得意な部分を生かして苦手なことを補うための具体的な方法を学ぶことで、学習上又は生活上の困難を和らげることが目的となっています。そのため、たとえ障害があったとしても、適切な対処方法を子供自身や周囲が理解していて、学校生活に困難を感じていなければ、通級指導教室に通う必要はありません。 逆に、学力は問題なかったとしても、感覚過敏などによって通常の教室でストレスを抱えているケースでは、通級指導教室を活用することで、学校生活の苦しさが和らぐケースもあります。
前の年度から12%増加し、過去最多となりました。この人数は毎年増加傾向にあることから通級指導教室の需要が高まっています。障害に対しての理解が深まったことで、普通級学校での教育を求める保護者が増えたと考えられます。在籍する学校にその子のニーズに合った通級指導教室が設置されていない場合は、近隣の他校に通うこともあります。
特別支援学級とは?
軽度の障害のある子供を教育するために、小学校や中学校に設置される学級を言います。知的障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱、弱視、難聴、言語障害および自閉症・情緒障害の児童・生徒を対象としています。特別支援学級の定員は8名が標準であり、きめの細かい指導を行うことができるよう、少人数で編制されています。しかし、学級の構成員は1学年だけではなく、多学年にわたっていることが多いです。
子供の障害の状態や特性などに応じて、治療的指導、教科補充指導など多様な内容についての指導が行われています。また、特別支援学級は、普通学級の子供と各教科や学校行事などをともに行なう「交流及び共同学習」が比較的容易にでき、相互の密接な連携のもとに指導が行われています。しかし、全ての小・中学校に設置されているわけではないため、通級指導教室のように子供の障害に合った学級がある学校へと入学しなければならないこともあります。
特別支援学級に通う子供は、2021年で326,000人となり、2011年から2021年までに2.1倍増加しているという統計が出ています。それだけ特別支援学級のニーズが高まっていることになります。
障害の種別に応じて1人でも該当する子供がいれば、学級を作るために、教室や人員の確保が必要になります。人口が多い地域だから人員が集まりやすく、特別支援学級が多くあるというわけではありません。地域の政策や意識の高さによって、特別支援学級の設置数に差が見られているように思います。
特別支援学校(special support school)とは?
心身に障害のある子供が通う学校のことです。「幼稚部」「小学部」「中学部」「高等部」が設けられていて、子どもの自立や社会参加に向けて、自分自身で考えて行動を選択できるようにしたり、生活や学習で困る場面を解決できるよう、指導と支援を行ないます。
教育課程は、基本的に小・中学校などと同じですが、障害に基づく様々な困難を補う特別の指導を行う領域として「自立活動」が設けられています。各都道府県などが地域における教育に対するニーズなどに応じて判断して設置することになっています。したがって、複数の障害に対応した学校を設置できるとともに、特定の障害だけに対応した学校を設置することもできるようになっています。
全国の特別支援学校は現在1206校あります。2004年は999校でしたので、学校数が増えていることがわかります。特別支援学校生徒数(幼稚部~高等部計)は、2004年は98,796人、2021年は146,000人となり、2020年から1500人増え、過去最多を更新したと言われています。増加している背景には、特別支援学校のニーズが高まっていることが考えられます。
まとめ
通級指導教室、特別支援学級、特別支援学校などのニーズが高まっている一方で、都道府県の財政力の問題、教育委員会などにおける政策の優先順位の問題、生徒数や学校数、教職員の専門性、地域の医療、保育など行政サービスの状況、保護者の意識や家庭の経済状況、地域住民の理解や意識などの影響が大きいです。
全ての障害を持つ子供がしっかりと学習できる環境や機会を増やしていくことが、これから先の未来にとって重要と考えます。1人でも多くの障害を持つ子供が社会で自立できるように就学中に教育していけるようにすることが必要と思います。