韓方の魅力
はじめまして。管理栄養士・国際中医薬膳師の趙みどりです。「食」を大事にする韓国伝統医学、韓方(ハンバン)に深く共感し、伝統茶などを取り入れながら日々の養生に生かしています。初回は韓国の漢方、韓方(ハンバン)の魅力についてお伝えしたいと思います。
ドラマで一躍有名に
私が韓方(ハンバン)に興味を持ったきっかけは、よくある韓国ドラマです。それまで韓国ドラマなどまったく興味もなく過ごしてきたのですが、嫁いだ先が大阪の在日韓国人の家系で、家の中の家具も全て韓国製、壁にはお義母さんの作品のポジャギ(布製の装飾品)が飾られ、TVからは常に韓国ドラマが流れているような家でしたので少しづつ影響され、ドラマを見始めました。
そこで出てくる韓方や、お茶などに興味を持ち始めましたが、決定的だったのはやはり「チャングムの誓い」です。ドラマに出てくる様々なお料理に惹かれ、私もこんなことを学びたいと漠然と考えていました。
そこから韓方の講座を見つけて受講し、さらに東京で開催された釜山大学校韓医学専門大学院の李尚宰(イサンジェ)先生による、東医宝鑑アカデミーで韓方と韓方茶を学びました。
そんな私がどっぷりはまった韓方を、少しですがお伝えしたいと思います。
中医学から韓方へ
日本で漢方といえば思い浮かぶのは漢方薬のイメージでしょうか。古代中国の「中医学」がベースとなっているのですが、韓国にも同じように中医学が伝わり、それが独自に発展して現在の韓方となりました。
韓国ドラマなどでも袋に吊るされた薬剤が出てくるシーンをご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。
韓医師という職業
韓国では韓医師という職業があり、韓医師になるためには西洋医学の医師と同じように、大学で6年間学び国家試験を経てなります。
街中に韓医院があり、人々は身体の不調があるとそこで診てもらいます。韓医師による問診、望診(顔色や舌診)、聞診、切診(脈診)などを経て、鍼やお灸の治療をしたり、韓方薬を処方してもらったりします。
西洋医学は病気そのものにスポットをあてて診るのに対し、韓医師は人を診るようです。
「気」「血」「水」が不足し、流れが悪くなるなどして本来の体のバランスが崩れているために病気になると考え、不足しているものを補い、滞っているものを流れるようにして元のバランスにもどす治療をします。
中医学でも虚則補之 実則瀉之といい、不足すれば補い、余剰となれば排出するという考え方があるのでこのあたりは少し漢方とも似ているところもあるようです。
日本語のわかるスタッフがいて通訳もしてくれるところもあるようなので、自由に渡韓できるようになったら訪問してみるのもいいかもしれません。
食治(しょくち)
韓国の食事
またドラマのお話になりますが、韓国ドラマをご覧になったことがある方は、やたらと「食べなさい」と食事を勧めるシーンが多いことに気づかれるかと思います。
韓国でお店に入るとおかずの多さや野菜の多さに驚きます。注文した料理のほかにおまけの前菜、おかず、キムチなど小鉢がたくさん出てきます。
韓国では健康はまず食事から。日々の食生活を見直すことで元気を取り入れることを「食治」といい、東洋医学の重要な治療法の1つとなっています。
写真はチョンアラムという、韓国大邱広域市寿城区にある薬膳料理のお店です。新鮮な国産食材と天然調味料を使った数々のおかずは体にもやさしく、ひじきとアワビのごはんなど注文するとたくさんのおかずが出てきます。ぜひまた行きたいお店です。
薬食同源
「薬食同源(やくしょくどうげん)」という言葉があります。飲食でもあり、薬でもある。
韓国伝統医学史上、最も代表的な医師「ホジュン」が著した医学書「東医宝鑑」でも食べ物と薬を区別しないで、薬の性質と効能を記述する方法で食べ物を説明しています。(紫蘇、薄荷、栗、ぶどうなど)
食べ物にも、薬と同じように効能があると考えられていました。
また、正気と邪気という考えがあり、正気が体内にしっかりあれば邪気に侵されないので正気を補うことが重要な治療法だと考えられました。食事は正気を補う大切な役割をしていました。
現代の栄養学では何でもまんべんなく、バランスよく食べることをよしとしますが、韓方では四気五味といって食べ物の性質や味の作用を考え、体質に合わないものは控えます。
四気(性)
寒、冷、温、熱
五味
辛味:発散する作用
甘味:緊張を解く作用、補う作用
苦味:乾燥する作用、熱を抜ける作用
酸味:収斂する作用
鹹味:柔らかくする作用
韓国では昔、食治を専門的に行う医師が存在し、食べ物の味を調整しおかずの配置などを行っていました。この医師は中医学同様、医師は食医と呼ばれ、疾医、瘍医、獣医など他の医師の中でも重要な役職とされていました。食べることをとても大切にしてきた一面がうかがえます。
薬令市場
現在も韓国のソウルや大邱などには薬令市場という市場があり、さまざまな韓方薬剤などが売られています。菊花やなつめ、桂枝などお茶にして飲めるものもたくさんあるので見ているだけでも楽しくなります。
街中のカフェではなつめ茶、菊花茶、かりん茶、ゆず茶などの他に、韓国伝統茶といって9種類の薬剤が入った双和茶(サンファ茶)が飲めるお店もあります。
双和茶(サンファ茶)は双は陰陽(気血)を和は調和を意味します。疲れやすい、気力がない、風邪をひきそうなときに飲まれます。大棗、桂皮、生姜、甘草、黄耆、熟地黄、芍薬、当帰、川芎などが入っているがお店によってレシピはさまざまだそう。
韓方が自然に取り入れられる環境にあるのはとてもいいなと思います。
中医学が韓国独自の医学として発展し受け継がれてきた「韓方」。
韓国伝統茶は他にもさまざまな種類があります。これから少しずつお茶についても触れていきますね。