体質別ハトムギの使い方
管理栄養士・国際中医薬膳師の趙みどりです。今回はじめじめした梅雨の時期にぴったりのハトムギについてまとめてみました。
Contents
楊貴妃も愛したハトムギとは?
国産もあります!ハトムギの産地
ハトムギはイネ科の作物で(学名:Coix lacryma-jobi var ma-yuen)晩秋から秋にかけて収穫されます。ハトムギの栽培はインドシナ半島、インドのアッサム地方から始まったといわれており、現在は中国南部から東南アジアで栽培されています。
日本には江戸時代の享保年間に中国から伝わったとみられ、現在では東北地方、中国・四国地方、北陸地方など全国各地で栽培されています。
生薬・ヨクイニンの深い歴史
ハトムギの殻を取り乾燥させたものをヨクイニンといい、生薬として使われていました。中国では司馬遷の「史記」にも記述があり世界三大美女といわれる楊貴妃も愛用していたのだとか・・・。
中国、日本の書物にも記述があり、中国では日本では江戸時代に貝原益軒が編纂した「大和本草」にヨクイニンのいぼ取りの民間療法が初めて記載されています。中国で最も古い薬学の専門書「神農本草経」には体を軽くし、元気を増し、痛みやしびれの病を治す作用があるとされています。
また、明の李時珍によって書かれた「本草網目」(1892種の薬と47種の新薬を記載)には脾を健やかにし胃を益す。肺を補い清熱する・・などの記述があり、古くから生薬として親しまれてきたことがうかがえます。
すぐれた栄養価
炭水化物、たんぱく質、カリウム、ビタミンB1などを多く含みます。
穀類に分類されるので炭水化物が多く、たんぱく質も100g中13.3gと豊富で栄養価は高いです。カリウムも含まれるのでむくみが気になる方や高血圧の方にもおすすめです。
ハトムギの効能効果
漢方では主にいぼ取りや肌荒れの改善に用いられます。また産後の体力回復などにも。利尿作用があるためむくみにも効果的です。
種皮を除いた成熟種子をヨクイニン、殻付きのままをハトムギといいます。生薬としては体にたまった湿、むくみを除去し胃腸を健康にするのに使われます。
脾が虚して(胃腸が弱って)起きた食欲不振や下痢、浮腫、お腹の張りなどには茯苓、白朮、黄耆などと合わせます。お茶や薬膳粥としても応用できますね。
薬膳としては粥、サラダ、お茶、煎餅などとして調理されます。
ヨクイニンの味は甘、淡で、冷やす性質ではあるものの胃を傷つけず脾を補います。湿温の初期、じめじめして蒸し暑い時期にハトムギのお粥を食べると体にこもった熱をとり(清熱)、むくみを取るので(利水)、梅雨の時期に良い薬膳と言えます。
注意:所説ありますが妊娠中はよくないとされるので控えるか漢方薬局に相談しましょう。
ハトムギが解決するお悩み体質ベスト3
気虚体質
気虚体質の方は胃や腸が弱く消化吸収機能が低下しているため温かく消化のよい穀類を摂りましょう。ハトムギはご飯と一緒に混ぜて炊いたり、お粥に混ぜたりしてとるといいでしょう。
韓国では「ユルム茶」という、ハトムギをベースにアーモンド、クルミ、松の実などのナッツ類が入ったお茶があります。ちょっと疲れを感じた時やリラックスしたいときにぴったりのお茶です。
市販のものも売っていますが自分でハトムギ、松の実、アーモンドなどをミルで砕いて作ると甘さも調節できていいですね。
ユルム茶は弱っているときには栄養価も高くていいですが、エネルギーも高めなので飲みすぎはカロリーオーバーになりますので気を付けてくださいね。
水滞体質
水滞体質の方には利尿作用があるハトムギはぴったりの食材です。同じく利尿作用のあるきゅうりや冬瓜などの瓜類と一緒にお粥やスープにして摂取しましょう。瓜類、ハトムギは身体を冷やす食材なので生姜など温める食材をプラスすると安心です。
陽熱体質
ストレスや飲酒、高カロリーの食事などで熱がこもった体質の方は肝がダメージを受けているので、冷やす性質のハトムギで熱を取り除きましょう。
味の濃い食べ物や高カロリーの食事は控え、冬瓜、きゅうりなどの瓜類やセロリ、ナスなど冷やす性質の野菜と合わせたスープを摂取し、運動もしてエネルギーを発散させましょう。
水滞体質と陽熱体質の方がお茶として飲む際は、ユルム茶ではなく焙じハトムギにお湯を注いで飲みましょう。
同じハトムギのお茶でも気虚と水滞の体質によって飲み方を変えたほうがいいと思いお茶は2パターンの飲み方をご紹介しました。
お薬の中のヨクイニン
ヨクイニンは中医学の中薬学で利水滲湿薬(りすいしんしつやく)のグループに属し、体に停滞する水湿を取り除きむくみなどの症状を改善するのに用いられます。
甘淡、微寒の性質で、清利湿熱、健脾補肺(体にこもった湿熱を冷やし、脾と肺を健康にする)効能を持つので、胃腸が弱っていて湿が原因の食欲不振、下痢などお腹の調子が悪い、水分でお腹がぽちゃぽちゃいう、脚がむくんでいる、尿量が少ない、舌が白い(冷えの症状)タイプの方に使用されます。
服用すると尿量が増え体内の陰液・津液(体内の水分)を消耗するので生薬、漢方薬として服用される場合は必ず漢方薬局に相談して服用します。
麻杏薏甘湯(辛涼解表)関節痛、神経痛、筋肉痛などの症状に
薏苡仁湯(祛湿徐痺) 湿痺の浮腫、むくみ、痺れなどの症状に
参苓白朮散(健脾止瀉)脾虚湿因の泥状~水様便などの症状に
症状のひどい時には漢方薬として服用しますが、日々の生活での養生では、薬膳として食事に足したりお茶として飲むことでセルフケアをして自分の体調を整えて健康に過ごしましょう。
【参考文献】
中医臨床のための中薬学 東洋学術出版社 神戸中医学研究会編著 2017.12.1
薬膳・漢方食材&食べ合わせ手帖 西東社 監修 横浜薬科大学准教授 喩静 管理栄養士・国際中医薬膳管理師 植木もも子 2018.12.20
薬膳素材辞典 健康に役立つ食薬の知識 源草社 辰巳洋 2016.4.15
アロマ&ハーブ大辞典 新星出版社 監修 林真一郎 2021.4.5
早わかり薬膳素材 食薬の効能・性味・帰経 源草社 辰巳洋 2017.6.10
漢方薬・生薬の教科書 新星出版社 北里大学東洋医学総合研究所所長 花輪壽彦