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【気血水】
気血水理論を学ぶ前の基礎知識
・気血水は陰陽
陽気、陰気という言葉は
「明るい人・暗い人」を指すこともあれば
漢方の臨床では「陽の働き・陰の働き」の意味で使われもします。
もう少し具体的にいうならば
体を巡る3要素【気・血・水(津液)】分類
陽気=気 陰気=血・水(津液)
このように表します。
・気血水は巡って働く
気血水は過不足なく潤滑に巡っているのが健康的な状態であり
逆に巡りが滞ったり、量が多すぎたり少なすぎたりすると、様々な症状を引き起こすことになります。
これら気血水の働きを理解することは重要ですが
一方で「陽の性質だから」とか「陰の働きとしては」と理屈にとらわれすぎると却って混乱のもとになりかねません。
臨床に必要なことがらを、あとで陰と陽にあてはめただけのことと理解しておけば戸惑うことがないでしょう。
まずはこの「臨床に必要な事柄」をきちんと整理しておきましょう。
五行に分類される五臓や六腑などが、体のしかるべき位置にとどまって機能するのに対して
気血水(津液)は互いに連携しながら体を巡ることで
その生理機能を発揮します。
いずれもからだ中のあらゆる場所で働きますが
気血水にも各々の性質に合った得意な場所、逆にトラブルを起こしやすい場所があります。
例え)
体表:気が巡って身を衛る
血脈:気と血が全身に栄養を供給
関節:水(津液)は動きを滑らかに
気の働き
・先天の気、後天の気、元気、真気
気は目に見えなければ手で触れることもできない
生命エネルギー・生理機能です。
《気の生成》
気=先天の気+後天の気
先天の気:親から受け継ぐ生まれ持った気
後天の気:呼吸及び飲食によって作られる気
「気」は元気や真気とも呼ばれます。
先天の気は腎から、後天の気は脾と肺から与えられますので
気の生成には五臓の働きももちろん重要です。
・宗気、営気、衛気とは?
気には臨床の上で重要な3種類があります。
《1,宗気しゅうき》
・呼吸の原動力となる気
・後に説明する営気えいきと衛気えきを循環させる力を持った肺の気でもある
《2,営気えいき》
・栄気とも書かれる
・栄養たっぷりで血を生成し、しかも血と同じように脈中を流れる気
・胃で作られた水(津液)から営気が生成され、さらにそこから血が作られる
・つまり水(津液)と営気と血は同じものと解釈する場合もある
臨床では水(津液)の不足か、営気の力がないのか、血が足りないのか
どこが症状の主体なのかを区別することがあったり
または営気を営血と呼んでこれらを区別せずに流れている経脈を治療の対象とすることがあったり。
古典の解釈の仕方や流派によって見方に差が出ることがあるのを知っておきましょう。
《3,衛気えき》
・脈外をくまなく流れる気
・役割①バリア機能(体表を覆うことで外部からの邪気の侵入を防ぐ)
・役割②体温調節・陽が強く活動的な気
肌のきめのことを腠理そうりといいますが
漢方では皮膚や筋肉、腸などの内臓の表面のしわのこと、さらに皮膚と筋肉の間の部分のことを指します。
衛気は腠理を開閉することで体温の調節をします。
・気の5つの働き
さて、気の種類について触れましたが、気の働きも様々あります。
《1,推動すいどう作用》
・ものを動かす
・血も水(津液)も気の力によって体を巡る
より臨床的に表現するなら新陳代謝や血液の循環を促す働きといえます。
推動作用が低下すると
短期的には生理機能が落ち、長期的には体の発育や成長に影響が出ます。
《2,温煦おんく作用》
・体を温めて体温を維持
温煦作用がうまく働けば血の巡りはよく、生理機能も活発化します。
逆に低下すれば
冷えや寒がり、それに付随する症状を招きます。
温まればよく動く、よく動けば温まる、温煦作用と推動作用の関係が見えますね。
《3,気化きか作用》
・ものの形を変える
・食べたものを体を成長させる栄養や体を動かすエネルギーに変える
・体を巡った水分を汗や尿に変えるなど
気化作用が低下すれば
浮腫む、汗が出ない、尿が出ないなどの症状が出ます。
《4,防御ぼうぎょ作用》
・体を衛る
・特に体表で外部からの邪気じゃきの侵入を防ぐ
邪気じゃき
病原菌やウイルス、花粉やハウスダストなどのアレルギー源を含むもの。
体表に張ったバリアの気は衛気えきと呼ばれます。
《5,固摂こせつ作用》
・あるべき位置にとどめておく
例え)
不正出血、尿漏れ、胃下垂、脱肛などは固摂作用の不調によって起こります。
血、汗、尿が漏れ出たり組織が下垂することなどは
固摂作用の低下とみなすわけです。
初めて漢方を勉強する人にはつかみどころがなく
最初の関門となりやすい「気」ですが
具体的な種類や働きを知ると「気」そのものはもちろん
漢方医学の考え方もぐっと身近になりますね。
血けつの働き
・血=血液ではない
血は現代でいうところの血液と、さらにホルモンの働きを含む概念です。
「含む」ということはそれだけにとどまらず、他にも働きがあるということです。
・血が支える肉体
血には体を潤し、栄養を届ける働きがあります。
《血の充実した状態》
・顔色など血色がいい
・筋肉がよく動く
・髪の毛がつややか
・肌が潤ってハリがある
女性では月経や妊娠、更年期の諸症状と深く関係しています。
・血が支える精神
もうひとつ、血には精神活動を支える役割があります。
これは漢方独特の考え方ですね。
《血による2つの精神活動》
①情緒
ストレス下でも落ち着いてふるうor不安感やイライラなど
②思考
ものを考えるときに鮮明でよく頭が回転するorぼーっとして集中できないなど
情緒にも思考にも血が必要です。
特に血が不足しやすい産後や月経時に、精神的に不安定になる方が多いのも納得できます。
水の働き
・潤す、気血をつくる
水は津液しんえきとも呼ばれ、体の血以外の水分です。
各臓器や組織の体液と正常な分泌物も水であり
むくみや乾燥、関節痛などのトラブルと関連が深い要素です。
《水(津液)の働き》
・潤す
・栄養を与える
・特に粘膜、腸管や肌表面、関節で重要
・営気や血を作る素
・水と気血の関係
皮膚を潤す、目・口・鼻・耳を潤す、内臓や組織に潤いと栄養を与える、関節を滑らかに動かすなどが水の働きですが
その働きには気や血と重複する部分がたくさんあり
「ここからここまでは水の役割でその先は気血の役割」などというふうに明確に区別することは漢方の目的ではありません。
臨床に上手く落とし込むために、他との関連を意識しながら水という概念を整理してください。
気血水きけつすいの生成
・気のつくられ方、巡り方
気血水が充分に作られて体を潤滑に巡るには、五臓の働きが欠かせません。
気(元気、真気)は先天の気と後天の気から作られると先に述べましたが
先天の気は五臓の腎に備わっています。
先天というくらいですから生まれついたときから決まっているものであり
先天の気が豊富な人がいれば乏しい人もいるのは自然なことで人の一生の性質です。
これに比べると後天の気は本人の心がけでいくらにでもすることができます。
後天の気は飲食と呼吸によって作られます。
食べたもの、飲んだものは五臓の脾によって水穀の気となります。
また五臓の肺によって取り込まれた空気は清気となり、水穀の気とともに後天の気を作ります。
飲食、そして呼吸を大事にすることは気を生成するのに大きな助けとなります。
先天の気と後天の気が合わさって作られた気は
五臓の肝の疏泄機能によって全身を昇降しながら巡ります。
体の内外の気の行き来、脈中を流れる気の行き来は五臓の肺によって調節されます。
これは衛気、営気の働きそのものです。
・血のつくられ方、巡り方
血のもとは営気えいきです。
やはり五臓の脾によって飲食から得られた栄養と水分が大元になっています。
水穀の精微とも呼ばれるこれらが
五臓の肺で呼吸によって取り込まれた清気と合わさって営気となります。
脈中の営気が変化して血となり全身を巡り、また五臓の肝に貯蔵されることでその量をコントロールされます。
・水のつくられ方、巡り方
水(津液)のもとは飲食物から得られる水分です。
五臓の脾ひ(ここでは消化器全般とざっくりととらえて良い)から吸収されて五臓の肺まで運びあげられます。
肺の作用で体表面へと行き渡り、また水の通り道である三焦を通じて全身へ巡ります。
同じく肺の働きによって五臓の腎へと降ろされ、体全体の水分の分布と代謝の調節が行われます。
必要な水分は腎から再び肺へと戻され、不用な分は膀胱へ送られて排泄されます。
気血水と流派
・傷寒論と黄帝内経の気血水
ここまで述べた気血水(津液)は
漢方の三代古典のひとつ『黄帝内経こうていだいけい』に記される臓象理論を元にまとめたものです。
中医学と呼ばれる畑で大事にされてきた考え方とも言えるかもしれません。
一方、日本で育まれた古方医学(同じく三大古典のひとつ『傷寒論』に立ち返って理論を整理しようとした江戸の人たちによって育まれた漢方医学)にも
気血水という病理観があり、こちらの気血水は必ずしも臓象理論をもとにした概念ではありません。
古方医学では気虚、気滞、瘀血、水毒という言葉で病理を説明しており、前者に比べると簡単で明瞭です。
漢方を勉強をする人、臨床に立つ人、治療を受ける人など
気血水(津液)という用語を使ったり聞いたりする人は様々ですから言葉の使われ方の違いに戸惑う場合があるかもしれません。
しかしどちらにも先人たちの経験と強い意志が込められています。
・いいとこどりで毎日を豊かに
こちらの方が素晴らしい、流派が違うから受け入れられない、そういう意見もあると思いますが
それで異なるバックグラウンドのものを切り捨ててしまうのはあまりにもったいない…
西洋医学vs漢方医学で対立する必要もなければ、まして中医学vs古方医学でもありません。
情報が共有されやすい現代ですから、いいとこどりで毎日に活かしていきたいですね。