アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、そしてこの夏にオミクロンと、新型コロナウイルスが変異を続けながら何度も流行を呼びました。2022年12月現在、この冬は夏と同じオミクロンBA.5、そして海外で流行中のBQ.1系統が第8波として広がるのではないかと予想されています。
流行初期のころとは症状・毒性が重くなくなってきた印象がある一方、感染力が増しているように見えます。
季節性インフルエンザの流行の時期とも重なることから、手洗いやうがいなど毎日の予防対策が欠かせません。
生薬不足が深刻
そんな中、深刻化しているのがお薬の不足です。ワクチン接種による発熱にも処方される解熱鎮痛薬は需要が高まり、全国的に不足しています。さらにお薬不足の波は漢方薬業界にも広がり始めました。
漢方薬不足の背景には中国から原料の生薬が安定的に入ってこないことが大きな要因としてあるようです。筆者が見聞きする範囲で不足が確認されている処方は抑肝散化陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)、五積散(ごしゃくさん)、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)、四物湯(しもつとう)などです。もちろん地域差・店舗差がありますから、これ以外にも不足の処方はあるでしょうし、一方で日本中からこれらがなくなってしまったわけではありません。ただ、長期的に使っているお薬が突然の供給停止になり、困惑の声が多く聞かれています。
また今月初めに「コロナ急性期に漢方薬が有効」と東北大学の研究チームの発表があってから、この処方を求める声が多くなりました。
研究で有効性が確かめられたのは「葛根湯(かっこんとう)」と「小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)」です。発症から4日以内にこれらを同時に服用することで、回復の早さや呼吸不全のリスクの低下が見られたといいます。
新型コロナウイルス感染症の急性期症状に漢方薬 漢方薬投与による発熱緩和、重症化抑制を確認
コロナに効くと話題の漢方薬とは?
「葛根湯」はドラッグストアでも取り扱いのあるメジャーな漢方薬ですが、一方「小柴胡湯加桔梗石膏」は医療用ですので、医師に処方してもらうなどしなければ手に入りません。ただし桔梗と石膏の入っていない「小柴胡湯」はドラッグストアでも入手可能です。
葛根湯はゾクゾクする寒気や首・肩の凝りが、使用の目安となります。風邪などに罹患して高熱が出るときの初期症状ですね。寒気や凝りを感じたその時に服用して、あえて発熱を促して自分の治癒力を引き出すお薬です。おうちに帰ってからではなく、携帯しておいてさっと飲むのが理想です。そして飲み続けるのではなく、寒気がとれて汗が出るまで、長くとも二日程度の服用で決着をつけるお薬です。タイミングよく初期段階で服用できれば一回の服用で事足りてしまうことも。一方で寒気や凝りの特徴を伴わない症状の場合は、いくらコロナ陽性となっても十分な効果は期待できないかもしれません。
小柴胡湯は中期、後期の風邪症状に使われることのある漢方薬です。
葛根湯と小柴胡湯、これら二つを合わせたのに近い処方が「柴葛解肌湯(さいかつげきとう)」です。二処方を合わせて御種人参と大棗を抜いて石膏を足しています。症状の激しい感冒に効果があり、一日ごとに症状の変化しやすい感冒でも初期から後期まで使える特徴があります。
今回の研究もまた、柴葛解肌湯をヒントに葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を組み合わせたのではないかと考えられます。柴葛解肌湯は医師から処方されるお薬ではなく、町の漢方薬局などで取り扱われる漢方薬です。保険の効くお薬なら、やはり葛根湯と小柴胡湯(加桔梗石膏)を同時に処方してもらうことになります。
葛根湯、銀翹散…漢方でのセルフケア
寒気や凝りは感じないけれども喉の痛みが出てきた、ということもよくあります。この場合は葛根湯ではなく「銀翹散(ぎんぎょうさん)」または「金羚感冒散(きんれいかんぼうさん)」がよく効きます。体質やタイミングによって症状の出方はまちまちですので、葛根湯と銀翹散はその両方を携帯しておくと安心です。寒気・凝りか、それとも喉の痛みが強いか判断して、合う方を服用します。
葛根湯と銀翹散(金羚感冒散)はいずれも、スピード勝負のお薬です。「あれ?風邪かも」という症状を感じてから服用までが早ければ早いほどよく効きます。相手が新型コロナでもインフルエンザでもその他の感冒でも、使うことができますよ。一服でよくなると、もしかして飲まなくても良かったのかもと思えることがあるかもしれません。実際にこれらは区別ができませんが、いずれにせよ大事に至らないならハッピーエンドですよね。
お薬不足の世の中でも備えられる部分を備え、普段から体力を温存しておくことも忘れずに。自分で治す力を養う年末年始にしてください。