薬剤師・国際中医師の三瓶千穂と申します。
漢方薬について、もっと身近な存在に感じてもらえるよう、イメージして作った物語を交えながら、楽しくお伝えできればと思っています。
毎年やってくるこの季節!天気予報でも花粉情報を毎日やっていますね。ティッシュ箱が一箱じゃ足りなくなるほどツーツータラタラと滝のように流れる鼻水。何とかしてくれー!!そんな叫び声が聞こえてきそうな・・・とりあえず何とかしたいというあなたに!
漢方はチームで働く
漢方薬は数種類の生薬が合わさって作られているものが多くあります。それは生薬それぞれの持つ特性を活かして、その時々の“敵”に合わせて挑むよう結成された、最善の“チーム”なのです。
今回は冬の寒さが残り春に移り変わる今の時期に活躍する漢方薬『小青竜湯しょうせいりゅうとう』について、『麻黄湯まおうとう』と少し比べながら解説します。
小青竜湯は、中国の神話に出てくる四神のなかの”青龍”に由来してつけられた名前です。
麻黄(まおう)、桂枝(けいし)、乾姜(かんきょう)、細辛(さいしん)、白芍(びゃくしゃく)、半夏(はんげ)、五味子(ごみし)、甘草(かんぞう)の八つの生薬から結成されています。
どのような場合に結成されたチームなのでしょうか。
小青竜湯の出番を一つの戦が起きたとして例えてみましょう。
小青竜湯を戦で考える
季節は冬から春ごろ。敵は風寒邪気ふうかんじゃき。今回の風寒邪気は「花粉」です。
一年を通して襲ってくる「風ふうの邪」
冬になると特に強まる「寒かんの邪」
そこに、とある王宮があります。
王宮の外部に注目してみましょう。
城の外側には王宮を取り囲む城壁があります。それは私たちの体でいうと、一番外側である肌の表面です。
門には守衛がいて私たちの体を外敵の侵入から守っています。また、門を開け閉めして敵が入らないよう、また味方が戦いやすいよう管理しています。
門・・・【腠理(そうり=皮膚の細かい隙間のこと)】
守衛・・・【衛気(えき)】
腠理(皮膚の細かい隙間)を開け閉めすることで、汗が出るのを調節し体温を管理
そして城の内部では、王宮の中で様々な使用人たちが働いています。
〜城の内部の様子〜
使用人たちは食事を作ったり、掃除をしたりなど王宮全体を忙しく駆け回っています。
この使用人のように、全身を巡り栄養を届ける役割を営気(えいき)といいます。
王宮には水の魔物が住みついています。
魔物の仕業で、配水管が詰まって水が流れない、蛇口が壊れて水が止まらない、など王宮の至るところで水のトラブルが頻繁に発生し、水の巡りが異常になっています。少しの衝撃があれば王宮内は溢れる水で水浸しになってしまいます。
つまり体内の異常な水分が過剰にたまっている状態です。体内の異常な水分を『水飲すいいん』といい、これがアレルギー体質の原因です。
そんなところに・・・
敵がやって来ました!
戦の始まり敵の襲来!
敵が城壁に沿いながらやって来て守衛を襲い捕らえます!
内部へと侵入し門も塞がれてしまいます。
そうこうしている間に中にいる使用人たちにも被害が及びます。
使用人、つまり営気に被害が及ぶと、
水のような鼻水・たん・ゼーゼー音が鳴るような咳、くしゃみ、鼻づまり、涙目
このような症状が出てくるのです。
基本的には、『麻黄湯』のときと同じように風寒邪気に襲われているため、”寒気・発熱・汗が出ない”といったかぜ症状があります。しかし、今回は体内に水分が余分にたまっている体質であるため、ここでは主に鼻かぜを特徴とした症状が出ます。
『小青竜湯』はもともと体内に水分が多くあるところ(アレルギー体質の原因)に、風寒邪気(花粉)に襲われたときにチームが結成されます。
救世主!チーム小青竜湯
チーム小青竜湯は外部では素早く敵を追い払い、内部では水のトラブルを解消し人々を救い出します。
つまり小青竜湯は
風寒邪気(花粉)を追い払うとともに、水分を取り除きます。
軽い、上昇、発散・あちこち移り変化が速い・揺り動く
冷える・滞る・固まる・収縮する
体表の風寒邪気を追い払うことを解表散寒(げひょうさんかん)
肺を温め水分を除くことを温肺化飲(おんぱいかいん)
と言います。
救世主!小青竜湯のチーム構成をみてみましょう。
チーム小青竜湯の構成
麻黄と桂枝はチームのリーダーとして敵を追い払い、乾姜と細辛は副リーダーとして内部の水トラブルに対応します。そして、白芍はリーダーたちに気を配り、半夏は副リーダーたちを助け、五味子はリーダーや副リーダーたちとも協力します。甘草は全体を見渡して働きます。
腠理(皮膚の細かい隙間)を開き汗を出すことで風寒邪気を取り除き、肺の機能を戻して咳・喘息を軽減する
解肌発表げきはっぴょう・温経散寒おんけいさんかん
麻黄を助け風寒邪気を取り除く。また、気血の通り道を温め寒邪を取り除く。
温中散寒おんちゅうさんかん・温肺化痰おんぱいかたん
腹部を温め寒邪を追い払い、肺を温め痰を取り除く
祛風散寒きょふうさんかん・温肺化飲おんぱいかいん・通竅つうきょう
風寒邪気を追い払い、肺を温め水分を除き、鼻の通りを良くする
養血斂陰ようけつれんいん
血を養い、陰液が過剰に出ないよう引き締める
燥湿化痰そうしつかたん・降逆止嘔こうぎゃくしおう
痰湿を乾燥させて取り除き、上った気を下げ嘔吐を止める
斂肺止咳れんぱいしがい
肺を引き締め咳を止める
調和諸薬ちょうわしょやく
全体がよりよく機能するように調整する
『小青竜湯』は『麻黄湯』の杏仁を引き、乾姜・細辛・白芍・半夏・五味子を加えた加減方です。
チーム小青竜湯の決め手
小青竜湯は体内に水分が過剰にたまっている体質(アレルギー体質の原因)であること、水のような鼻水・たんなどを特徴とするかぜ症状や花粉症症状がみられるときです。
・体力は中間
・水分がたまっている体質(むくみやすい、お腹からポチャポチャ音がする)
・感冒(鼻かぜ)、気管支炎、アレルギー性鼻炎、花粉症
・寒気/発熱/汗が出ない/水のような鼻水・たん/ゼーゼー音が鳴る咳/くしゃみ/鼻づまり/涙目
今回は出典『傷寒論』『金匱要略』より、花粉症に注目して「小青竜湯」の使い方をイメージしやすいようにお伝えしました。小青竜湯は、ウイルス・花粉・黄砂などによって引き起こされる特に水のような鼻水などの症状を軽くするために使われます。
春の養生法として古典名書である『黄帝内経』では
「夜は遅く寝ても良いが、朝は早く起きて、庭をゆっくりと歩き、髪を解きほぐし、体を伸びやかにする。生き物を殺してはいけない。与えても奪ってはいけない。誉めても罰してはいけない。」
とあります。春の時期は様々な環境変化があり、心がざわついてしまいますよね。気持ちをのびのびとゆったり保ち広い心を持って生きていきましょう!!心はなかなか難しいかもしれませんが、早く起きて散歩したり、体を動かすことは簡単にできそうですね!