太りやすい体質を作っているのは腸内環境です
漢方薬店kampo’s(カンポーズ)薬剤師・薬学博士の鹿島絵里です。現代科学と漢方医学の両方から健康・美容の最前線に迫ります。
明るい表情に前向きな思考、そして日々快適な体調。理想的ではあるけれども、そんなふうには生まれてこなかったとあきらめることなかれ。腸内細菌しだいでこれらは叶います。
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ヒトゲノムだけがすべてを決めはしない
「代々の体質だから、そういう家系だから」と、自分を決めつけているところはないでしょうか。あきらめる前に、持って生まれた遺伝子と、生まれてから獲得する我らがパートナー腸内細菌の影響、どれほどのものなのかを見てみましょう。
まずヒトの遺伝子。ヒトの細胞がもつ遺伝子の数(種類)はおよそ2万個です。ヒトの体は数十兆個の細胞でできていますが、その細胞一つ一つが同じ遺伝子を持ちますので、全部合わせても遺伝子の数(種類)はそのまま約2万個です。遺伝子には個人差が多少はありますが、ヒトをヒトたらしめている点ではあなたと隣人に実は大きな差はありません。ゲノムの個人差は0.1%に過ぎないと言われています。ちなみに一卵性双生児は遺伝子だけでみたらコピーの関係です。
自分は隣人とは全く別の人間だし、一卵性双生児だってよく見ると違う、と思いますよね。それは鋭く、且つ正しいものの見方です。私たち個人の性質を作る要素は遺伝子以外にももちろんあります。性格や好みは特に、環境や体験といった後天的な影響を受けやすい気がしますが、体質も例外ではありません。生まれてから形作られる部分が大いにあります。
生理機能のアウトソーシング
腸内細菌たちの膨大な遺伝子数
私たちヒトは進化の過程で、生理機能の多くをアウトソーシングしてきました。その委託先が腸内細菌たちです(正確には腸内だけにとどまらず、私たちの身体のあらゆるところに共存に欠かせない菌やその他の微生物・ウイルスたちがいますが、ここでは数および機能的に最も存在感のある腸内細菌をその総称としました)。
この腸内細菌たち、単細胞生物でとても数が多いことはご存知かと思います。現代では腸内外の身体全体にいる、ヒト由来ではない細胞の遺伝子の数は400万個以上と見積もられています。つまり、私たちヒトの健全なココロとカラダは、ヒト由来の2万個とその他由来の400万個、あわせて402万個(ちょっと乱暴ですが)の遺伝子で成り立っていると言えます。
腸内細菌たちが作る物質
ヒト由来遺伝子約2万個と腸内細菌たち由来の遺伝子約400万個を比較して、どっちが多いという議論はもはや意味を成しませんが、これだけ繊細かつ高度な私たちヒトのスペックは、腸内細菌たちの存在があって成しえているということはお分かりいただけると思います。
有名なところで短鎖脂肪酸がありますが、これをはじめとする腸内細菌の生み出す物質もまた膨大で、ヒトの身体を機能させるのに欠かせません。
親からもらった遺伝子はコピーでも、生まれてから獲得した腸内細菌のメンバーが違えば、一卵性双生児にもそれなりの違いが出てくるはずです。何せヒトの健康なカラダは腸内細菌たちへのアウトソーシングで成り立っていると言っても過言ではないのですから。
腸内もダイバーシティがいい
個性豊かな集団
腸内細菌たち由来の遺伝子数は前述のとおり約400万個です。もう少し数字のお話をすると、単細胞生物、細胞1個当たりの遺伝子数はわずか数百程度です。ヒトは約2万ですから、やはり腸内細菌たちひとつひとつ(一匹一匹?)は単純と言えば単純な生き物です。だからこそチームワークが評価されます。
健康な人とそうでない人の差は何か。腸内細菌たちをいろいろと調べてみても、「この菌が多い人は健康」という単純な答えは見つかりませんでした。一方で発見できた「ある傾向」があります。
腸内環境が良いと判断する指標のひとつに、腸内細菌の種類が豊富なことが挙げられます。代謝、免疫、そして神経といった健康のかなめになる部分には腸内細菌たちの寄与が大きく、これらが健全に機能している人たちは共通して、腸内細菌の種類が豊富です。逆に身体の力をうまく使えていない人たちは腸内細菌の種類が少ないことが分かっています。
ヒトの複雑な身体には多くの機能が必要
個人が多くの種類の腸内細菌を持っているということは、それだけ遺伝子の数も多くもっているということになります。単純ながらも腸内細菌たちはその種類を豊かにすることで、ヒトという複雑な個体の維持に寄与しているのですね。
個人としてよりよい身体を作るなら、変えることのできないヒトゲノムを嘆いているのは時間の無駄です。変えられる部分、腸内細菌たちにフォーカスして、彼らにダイバーシティを実現してもらいましょう。
だから腸活
私たちヒトが生きていくうえで、個々に共存する腸内細菌たちの存在は必須であることがわかってきました。彼らなしにヒトは健康を維持できませんし、そもそも正常な発達すらかなわないようです。
かつてゲノムだけが生物を形作る唯一の設計図と考えられた時代もありましたので、ヒトひとりの個体を維持するために他の生物に体内に住んでもらう必要があったのは少し驚きです。
こんにちの研究では、腸内細菌の種類が多いことだけではなく、どのように彼らを刺激して適切に働いてもらうか、また邪魔をしないか、腸内細菌同士の良好な組み合わせはどのようなものか、そうしたことに目が向けられています。腸内細菌を用いた治療や創薬研究もすでに始まっています。
腸内細菌の種類が乏しい現代人の腸
腸内細菌の種類に乏しいと言われる現代人の腸内環境ですが、それは便通が、肌が、風邪が、落ち込みが、疲れが、肥満が、花粉症が、、、といった多くのお悩みと関係しています。逆に言えば、これらは腸内細菌が緩和・解決してくれる問題です。
遺伝や年齢といってあきらめるのは、腸活を試してからで遅くはありません。同じ環境で暮らす家族は共存する腸内細菌たちも似通ってきますので、遺伝と思っている体質は実は腸内細菌による可変的な性質であることもしばしば。先祖代々受け継いだ遺伝子は、ご自身が思うよりずっと素晴らしいものかもしれません。
ご自身の力を発揮するためにも、ぜひ腸内環境を整えてみてください。