10倍粥だけだと栄養不足?!
また2023年5月にある保育園で8か月のお子さんがりんごを詰まらせて、意識不明の重体になってしまった悲しい事故がありました。窒息や誤嚥を防ぐためにできることもお伝えしたいと思います。
補完食とは?
補完食とは、母乳やミルクでは足りない栄養を補う赤ちゃんの食事のことで、WHO(世界保健機関)が推奨しています。始める時期は、離乳食と同じで生後6か月ごろからが基本です。
・細かい決まりはなく、足りない栄養を意識さえすれば、手に入りやすい食材、家庭でよく食べる食材などから選べる
・1日1回からスタートではなく、赤ちゃんの食べる量に合わせて変動できる
・6か月ごろから手に入る補完食の考えに基づいた市販のベビーフードがない
補完してほしい栄養素
生後6か月ごろまでは、母乳やミルクだけでエネルギーを補うことができますが、6か月を過ぎると、母乳やミルクだけでは、1日に必要なエネルギー量を補えなくなります。ですので、母乳やミルクにプラスして6~8か月では200kcal、9~11か月では400kcal、12~23か月では700kcal食事から補っていく必要があります。エネルギー源は、三大栄養素である炭水化物、タンパク質、脂質から補っていきます。母乳の成分は、脂質(中鎖脂肪酸)49%、炭水化物44%、タンパク質7%で構成されているので、食べやすい形態にしてあげれば、6か月ごろから脂質やタンパク質を取り入れても消化することができます。
10倍粥でエネルギーは足りるの?
日本で今主流になっている離乳食は、まず10倍粥を潰して裏ごししたものから始めて、離乳食を開始して2か月経ったごろから7倍粥にすると書かれていることが多いと思います。では、栄養的には10倍粥ではどのくらいエネルギーを補うことができるのか、母乳とそれぞれのお粥のカロリーを表で比較しました。
炭水化物カロリーの比較 | (100g中kcal) |
母乳 |
61kcal |
10倍粥 |
33kcal |
7倍粥 |
45kcal |
全粥(5倍粥) | 65kcal |
表を見てわかるように10倍粥だと母乳よりカロリーが少なく、かなりの量を食べないと補完する必要のあるエネルギー量を補うことができません。しかし、赤ちゃんの胃は小さく、体重7kgの赤ちゃんでは210ml(体重×30ml)程度しか食べることができません。食べられる量が少ないので、栄養が濃い物を少量あげるほうが効率よくなります。ですので、5倍粥からスタートし、量を食べられない場合は、そのお子さんに合わせて初期から2回食、3回食にしていけばよいのです。1回で無理に食べさせようとはせず、赤ちゃんのペースで楽しく食べることが大切です。
*初めて食べる場合は、飲み込めるかやアレルギーの確認もあるので、10倍粥や7倍粥から始めて、慣れてきたら、1か月以内には5倍粥にしていくことをオススメします。
その他の母乳では不足しやすい栄養素
エネルギーの他に特に補完してほしい栄養素が『鉄、亜鉛、ビタミンD、ビタミンA、カルシウム、ビタミンC』です。補完食はいつからでも色々な食材を与えても大丈夫ですので、初期から下記の食材をペーストにするなどして食べさせてあげましょう。また粉ミルクには必要な栄養素がバランスよく含まれていますので、粉ミルクを混ぜて離乳食を作ることもオススメです。市販のベビーフードにオートミールや粉末のレバーの粉などを混ぜて栄養価をアップすることもできます。ご自身のスタイルで補完食を取り入れてみてくださいね。
オススメ食材
鉄 | しらす、レバー、赤身肉、かつお、ぶりなど |
亜鉛 | しらす、卵黄、レバー、かつお、いわし、納豆 |
ビタミンD | 鮭、かつお、サバ、いわし |
ビタミンA | 人参、ブロッコリーなどの緑黄色野菜 |
カルシウム | 小魚、乳製品 |
ビタミンC | パプリカ、ブロッコリー、ジャガイモ、フルーツ |
*初めての食材は小さじ1から始めて、アレルギーがないか確認してください。1歳未満ははちみつを与えないでください。
この中でも特に不足に注意してほしい栄養素が鉄です。
鉄が不足すると、貧血症状だけでなく、精神面や発達にも影響すると言われています。
・夜泣きが増える
・乳児湿疹がひどい
・風邪をひきやすい
・手や足の爪が反り返っている
鉄の働きについて詳しく知りたい方はこちらのコラムもチェックしてみてください。
悩んでいたあの症状の原因は、鉄不足だった?! ステラデンタルクリニック(広島県)の薬剤師・国際中医臨床薬膳師の豊田暖佳です。疲れやすい、寝つきが悪い、朝起きられない、風邪を引きやすいなどの不調があり、病院に行ってみてもはっきりとした原因が[…]
なぜ鉄が不足しやすいの?
赤ちゃんは妊娠28週ごろから、お母さんから鉄を吸収し、貯蔵鉄として肝臓に蓄えます。この貯蔵した鉄を使って6か月ごろまでは成長していきますが、母乳にはほぼ鉄は含まれていないので、6か月ごろから多くの赤ちゃんが鉄不足になってしまいます。しかし、従来の離乳食だと鉄が多く含まれている赤身肉や魚、レバーなどの食材は9か月ごろからとされており、3か月もの間、鉄が不足した状態になります。赤ちゃんの3か月は大人とは違い、かなりの栄養素を使い成長していきますので、1日も早く補完食として取り入れることを推奨します。
食材の大きさや柔らかさはどのくらいがオススメ?
乳幼児が口を開いたときの大きさは、大体幅が4センチ、奥行きが5センチほどと言われています。一方、気管の太さは1歳未満で5ミリ、5歳前後で7ミリ程度です。奥歯が生えそろう3才ごろまでは、食材をしっかりとかみ砕く力が弱いので、口に入った食材を丸のみしようとしてしまいます。また誤飲してしまったときに、自分で吐き出す力が弱いので、窒息の危険が高まります。ですので、3歳ごろまでは食材は4センチ以上の大きさにし、上顎と舌ですりつぶせる柔らかさにしてください。手づかみ食べができるように、ある程度の大きさ、柔らかさにしておくと、上唇や前歯で自分の一口量を学習していき、その一口量をかじりとった後にすりつぶし、上手に飲み込めるようになっていきます。上手く咀嚼ができるようになるまでは、硬さや大きさに十分注意しましょう。
ご不安に思うところ、育児書だけでは解決しないことなど、ぜひ周りの人に相談してくださいね。コメント欄へのご質問もどうぞ。